なおぼうけん

日々を探検したり、掘り下げていきます。

2020-01-01から1年間の記事一覧

タイムカプセル

書き出し 診察室のドアが閉まる音が聞こえた。廊下に立ち尽くした僕は、前からカートを押してくる看護師さんの視線を感じ、道を開けた。ベンチに腰掛け、何をどう考えたらいいかもわからずに、ただクリーム色に壁を見つめた。壁の染みが何かの形に見える気が…

窓に映る

書き出し 薄明かりの時間に目を覚ます。まだもう少し、そう思いながら閉じていく目蓋は朝の灯りを体に残していく。ほんの僅かな、今日という1日からの逃避行が始まる。虚ろになりゆく意識の中で、やろうと考えていたことが水のように、意識の中を遠くに向か…

和風に導かれて

霜を踏む音 野分もそのほとんどが過ぎ去り、すでに木枯らしが過ぎていったのだと心付いた。 そうか、体を震わすほどの空気があたりに満ちるのももう直ぐなのだ。 ざっざっという音が足の裏から伝わってくる感覚は待ち遠しい。 マフラーを巻いて、みんなが来…

大根おろし

秋は夕暮れ 丁寧におろしても、土から顔を出す、葉の付いた方は辛みが少ない。突き進む力強い部分がピリッとしているのか、などと考えながら街ゆく人を見ていると、ふと青春時代の自分はそうではなかったかと、気がついた。 思い出すのも恥ずかしい話だ。ふ…

誘い水、石を穿つ

秋は夕暮れ 計画を立てた時に思い浮かべた筋書きの中で輝く自分の動きは軽やかで、無駄がない。 明日までに片付ければ、明後日からこの作業に取り掛かることができる。 煌めきがぱっと心を明るくした。だが朝になってみれば、それは線香のように潰えていた。…

フードを被る

秋は夕暮れ 北からの風が肌を撫ではじめたら、もう僕が半袖を着て外に出ることはなくなるだろう。 そしてそれは暮れを意識し始める時でもある。今年ももう年末が迫ってきているのか。そう感じるまで、きっとあと少しだ。山間の景色は燃えるような色で満ち、…

雁渡、腕を覆う布

心と秋の空 秋は過ぎ去るというよりも、通り過ぎているような感覚がある。夏を出た、という感覚は特にない。気がつくと袖を捲っていなかったり、外に出る前に一枚多く身に纏うようになった時、冬に辿り着いている。そこで吹き付ける風に耐え忍ぶように、春を…

やわらかい雨が浜風に乗って

心と秋の空 あるところで揉めている人たちの姿がクローズアップされると、それに知らない人が参加して各々の意見や感想を言う。そのためのアカウントを用意することもあるらしい。裏アカウント、それが個人を特定することができないという意味だと思われてい…

卒業

心と秋の空 何かを始める。そのハードルは年々高くなっている気がする。心のどこかで毎日の積み重ねがやがて実を結ぶと信じていて、そしてその日進月歩の道のりが楽ではないことを察知している。ただ生活するだけでも楽ではない。人生は長いようで短い。今か…

どこから来たものを、指で受け流す

心と秋の空 友達からニュースサイトの記事のリンクが送られてくる、ということが、最近では珍しくない。むしろ挨拶の代わりになってすらいる。今日は僕の好きな野球関連のゴシップが飛び出してきたんだな、とか。オフィスに着くや否や同僚が話しかけてくるよ…

傘をひらく、ひろげる、さす

心と秋の空 なぜ女心と秋の空、などと女性が接頭しているのだろう。アナクロな表現であることに、無自覚で居続けたのだろうか。 ふとそんなことを思いながら、ぽつりぽつりと降り出した雨をしのぐように、着ていたパーカーのフードを被った。近くの薬局に行…

知っていたら、やらなかった

残暑はもう終わりました 肌を駆ける風が少しだけ冷たい。もうすぐ感想と寒さが街を支配する。 季節の移ろいを感じることは、僕が外を走る動機の1つになっている。家に走る機械があればそれを使えばいい、というわけではない。 ペースを何も考えずに走ってい…

見つめる先に

残暑はもう終わりました 「何も取り柄がない人が社会でやっていくのに必要なのは勤勉さと従順さだ」 そんな美徳を信じ、仲間が集まると、異端を恐れては美徳を守るために排除した。 これもそうしたかったのだろうか。足を踏もうと振りかぶった様子が傍目に入…

喉元を通れば熱さを忘れる

残暑はもう終わりました 佇まいは穏やかで、その戸を引くまではサラリーマンでごった返しているなんて想像もしていなかった。 一様に白いシャツを着ていて、サンダルにTシャツの僕をまるで学生でも来たかのうような目で、彼らは見てくる。同じ服を着ている方…

冷房の風に吹かれて

残暑はもう終わりました 木目の床に、黒い液体が静かに滴っていた。その上の方で、完全に熟したバナナが萎れている。 ああやってしまった、と思い項垂れるのも面倒で、手から動かすようにティッシュを探し始めた。 黄色かった頃の面影をその形にしか留めてい…

見上げた空に

残暑はもう終わりました 日向に出るのが躊躇われるような外の世界に足を踏み入れた途端、側を一台の自転車が通り過ぎた。 危険を感じる間も無く、彼は誰かが注文したであろう食事を運んで行った。 こういう日は何をどうしても気が立ってしまう。 次第に人の…

照りつける日差しの中で

残暑は、もう終わりました もう少しすれば、きっと金木犀の香りが前から訪れるだろう。背中を伝う汗がTシャツを湿らせる。コンビニの冷風が当たった。 心地の良さがすぐに寒気へと変わる時、季節の厳しさを改めて想う。 夏は店内で、冬は店外で感じることだ…

断捨離・冷水・夜

2020/08/22 断捨離(Letting go) 引越し用の段ボールに入りきらないものは捨ててしまおう、と意気込んだはいいものの、そう易々とものからは離れられない。 毎日を送る中で、いろんなものを使っているものだと改めて実感したのだった。 いざ部屋を出るとな…

日射・キリン・蝉

2020/08/21 日射(Solar radiation) 日陰を歩道にしながら上野の街を歩いた。終わらない梅雨の雨が去ったと思えば、それが強い日差しに変わっただけで、街ゆく人の表情は相変わらず険しいままだ。 最近の天気は極端で、ちょうどいい季節が少ない。もっとも…

プレーオフ・柑橘・先着順

2020/08/20 プレーオフ(Play-off games) 季節外れのプレーオフ。選手もチームも、そのパフォーマンスは圧巻で、好きなチームを贔屓することも忘れて、観る者を魅力する。熱狂をリアルタイムで楽しんだあとはお酒を飲んで寝てしまいたいが、あいにく日本は…

歯軋り・右膝・背景

2020/08/19 歯軋り(Bruxism) 一晩経っても頭痛が改善されないと、何もかもが嫌になる。頭痛が持病でなくて本当に良かったと思うばかりだ。 歯軋りをしていたのか、顎や歯茎のあたりに疲労感を感じながら身体を起こした。 この頭痛はもう、自分では解消でき…

咖喱・羽根・糸

2020/08/18 咖喱(Curry) 適当に布団に横になったのだろうと気がついた時にはもう遅く、首の痛みが少しでもあると、ああこれがずっと続んだなあと気を落とした。 案の定昼過ぎには頭痛に変わっていて、1日を棒に振ることになるのである。 頭痛には勝てない…

埃・いつも・炭酸

2020/08/17 埃(Dust) 引越し費用の支払いが済むと、それまでの腰の重さが嘘のように整理が進んでいく。要らないものを捨てる、段ボールに荷物を詰める、冷蔵庫の食べ物を減らす。 徐々に無機質になっていく部屋と、淡々とそれに近づける僕、露わになってい…

クロワッサン・浮遊・夕立

2020/08/16 クロワッサン(Croissant) 時計を見るともう7時30分になっていて、しまった2度寝をしたかと思ったけれど、授業は最終日で、僕は課題が出来上がっていたから、焦りはなかった。 朝ごはんはビタミンがたくさん入っていそうな見た目のゼリーでいい…

音楽・プリン・茹で麺

2020/08/15 音楽(Music) 毎日電車に乗ること自体、半年ぶりのように感じられたが、あながち間違ってはいなかった。 その疲れが出て来たと感じた頃には、イヤホンをつけて音楽を聴きながら電車に乗る習慣がきちんと復活していた。 それほど外界の情報は多く…

ホワイトチョコレート・トナー・挨拶

2020/08/14 ホワイトチョコレート(White chocolate) 白いダースを一つ食べたら作業に取り掛かろう。そう決めてからかれこれ4つ食べ続けた。やがて12個全て食べ終わって、喉が乾いて水を飲みに行く。 そんな時に感じるのは罪悪感というレッテルの貼られた満…

王・ウイニングラン・痺れ

2020/08/13 王(King) くに、と読ませたいのか、読み仮名ではなくただ一連の名前になっているのか、そういう店が吉祥寺にある。通学中に気になっていて、今日初めて入ることができた。 いまいちな気がしつつもタイムアップを迎えた企画書を提出して、それで…

方角・踊り場・剔る

2020/08/12 方角(Direction) 方向音痴なのは道を覚えようという気がさらさらないからである。あっちにいけば着くだろう、どこを通ったって構わない。そういう慢心にも似た気持ちがどこかにある。 必ず「あれ?」と思う時が来る。そんなことはとうにわかっ…

酷暑・メーク・ハリボー

2020/08/11 酷暑(Intense heat) 翌朝起き上がったときに、目眩がするほど暑い。外に出てはいけない気温だということに気づくまでに、そう時間は掛からない。 道路の上が白んでいるように見えて、それが日差しのせいなのか、果たして暑さのせいなのか。 や…

浜風・拍手・捩る

2020/08/10 浜風(Sea breeze) 出航する船を眺めながら、浜風で汗を乾かしていた。自転車で横浜の街中を駆け巡るも、いよいよ暑さに耐えかねて日陰で休んでいたのだ。 さっきまで引越し先の契約をして、その前は寝坊して急いで電車に乗って。 これから住む…