前を見て歩いた。それを思い出そうとした。
ところが前に何があったのか、一向に浮かんでこない。
わたしは、陽炎を見た。
わたしは、陽炎を見たのだろうか。
スマートフォンを取り出した。
覗き見た仮想空間にいる友達の呟き、知らない人が騒いでいるかのような、炎上騒ぎを見た。
ところが何を目にしたのか、一向に浮かんでこない。
沈思黙考するわたし自身を見つめる目。
澄んだ心の中で、何をも見ているようで、何をも見ていない目。
わたしの中に、陽炎を見た。
わたしはいまゆっくりと、立ち上がる。
擦り切れていって、わたしそのものが少しずつ、いま。