酷暑・メーク・ハリボー
2020/08/11
酷暑(Intense heat)
翌朝起き上がったときに、目眩がするほど暑い。外に出てはいけない気温だということに気づくまでに、そう時間は掛からない。 道路の上が白んでいるように見えて、それが日差しのせいなのか、果たして暑さのせいなのか。
やけに真っ直ぐに伸びた吉祥寺の通りを、ただひたすらに歩いた。行ったことのない道を通るのが、何も今日のような酷暑日でなくたっていい。
暑さのせいで出ている汗だけが、僕のTシャツを湿らせているわけではなかった。
こんなときに限って、お腹が痛くならなくたっていいのだ。
まるでオアシスを探すように僕は歩いた。都会には突如、砂漠が現れることがある。 お手洗いの蜃気楼が見えるとしたら、この状況ではかなり不用意なことだ。
メーク(Makeup)
風が強く吹き付ける教室は心地いいようにも感じられたが、それが外からの熱風だとしたら気持ちの良いものではないだろう。だが窓を閉めるわけにはいかないのが今年の特徴なのだ。 どうして窓際の席を選んだのだろうと考えの浅い自分自身を少し悔やんだ。
ただ窓から見えた中央線の流れが面白くて、気がついたら窓際に座っていただけなのだ。
徐々にエアコンの空気で冷やされていく部屋で汗が引くのをじっと待ちながら、心を落ち着けようと考え事をしていた。 そのとき、不意にメークドラマという言葉が浮かんだのだ。巨人にまつわるような、あの言葉。試合がひっくり返って、やっぱり勝ってしまうような。 あるいはパフォーマンス性が極端にました、まるでプロレスのような。なんとも納得し難い表現。
見る人がそこで感じることのほかに、中継によって化粧をされて出てきた映像と音声がそこにあって、それが美人だと思ってしまう。
何に対しても何か物語があるのではないかと思ってしまうのが人間の性である。
そんなことを考えていないで授業を聞こう、そう思ったときには汗が引いていた。買ってきたお茶から流れ落ちた水滴が、机の上を濡らしていた。
ハリボー(Haribo)
午後になってPCのある移動すると、まるで冷蔵庫のように冷えていて、思わず体が震えた。思わぬ硬さのあるグミを食べた時の感覚になぜか似ていた。
昔から個人作業に入ったときに、それができないのは自分が悪いからだと思い込んで、先生と没交渉の状態に陥ることがあった。 それが学校に来る意味の半分を失っていることに気づいたのはもう学校にいくことがほとんどなくなってからで、 気づいたからといってすぐに解決できるほど簡単なものではなかった。
そういう緊張感がどことなく自分の中にあった。
部屋にしんとした感覚が満ちていたのは、ただ冷えているだけではないことを半ば意識していたのだ。
思わず喉が乾いてお茶を一口飲んだ。ここは飲食は禁止だとすぐに注意され、ペットボトルの蓋を閉めた。