なおぼうけん

日々を探検したり、掘り下げていきます。

クロワッサン・浮遊・夕立

2020/08/16

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クロワッサン(Croissant)

時計を見るともう7時30分になっていて、しまった2度寝をしたかと思ったけれど、授業は最終日で、僕は課題が出来上がっていたから、焦りはなかった。 朝ごはんはビタミンがたくさん入っていそうな見た目のゼリーでいいと思える日で、外を出ると家にいなさいと言わんばかりの日差しがお出迎えしてくれていた。

案の定8時30分には僕は吉祥寺にいた。冷えたアトレのロビーを通り抜けた時からまとわりついた熱気が容赦無く体力を奪う。

そこから時間は12時までスキップする。まぐろ丼を食べ、コーヒーでも飲もうかと吉祥寺の街を歩く僕はすでに課題を終えた安堵よりも、お盆がいつの間にか終わりを迎えていた寂しさを感じ始めていて、 最後の休みをショッピングとランチに費やそうとする若者の間を掻い潜っては、額の汗を拭っていた。 チェーンのコーヒーショップに入り、閉まることのないドアから入り込む熱気が背中の汗を撫でている。僕は気を紛らすようにメニュー表を眺めた。 前で注文する見知らぬ母親が不機嫌そうに注文をしている。

不意に横から話しかけられたと思えば、スキをつく形で注文を聞いてくれていただけだった。頼む度に首を傾けては、マスク越しでも明らかに笑顔だとわかるその愛嬌が快かった。

チョコクロワッサンが3種類ありますがどれになさいますか、と聞かれて見てみるけれど、2種類しかない。僕は真ん中のをお願いしますと言うと、思っていたものがトングで運ばれていった。

温めてくれるそうだ。

浮遊(Floating)

まるで話すチャンスなどなければ、そういうことを平気でする時期でもない。感染症対策は本当に多岐にわたるものだ。

ただ1人外にいく人影が見えた時、それはまさしくチャンスだと思った。第2打席、ピッチャー見知らぬ人。バッターボックスに立つのは今のところ打率.000の僕。 そのまま危なげなく2打席目を安打で締め括り、ようやく大学で知り合いができた。

そこから休憩や講評が続いて、何人かの人に作成の背景を聞くなどすることができた。

僕の作品はどうだったかというと「親しみがあるけれどいいところが小さく全体的に構成がとして上部に浮いている」との評価だった。

なるほど、お化けを描いたあたりの表現は違った形で演出されてしまったのだなと思うと、何もわからないでいた頃に比べて格段に前進した気持ちと、まだ前に伸びる長い長い道の両方を感じた。

ここからどうなるかは僕にもわからない。

夕立(Evening shower)

改めて作成したポスターを眺めると、いろんな調査をした結果のエッセンスがうまく盛り込めているような気はした。元の作品があるかどうかもよくわからないのに、パスティーシュのような雰囲気もある。

講評はしめやかに終わりを迎えたけれど、声はないが、共に作成した学生同士が何か繋がりを感じているような雰囲気が醸し出されていた。その中心にいたのは間違いなく気さくに添削を続けてくれた講師の先生だっただろう。

すると急に大粒の雨が降り出し、解散となった教室に僕らは立ち止まることになった。

立ち籠めてくる雨の香り。冷めていくアスファルトの熱。戸惑う僕ら。

お盆の終わり。今年の夏は何があったかなと思い返してみるけれど、何もなかったような、いつにもましていろんなことがあったような、紅茶の味と、時々口にしたビタミンゼリーの味が脳裏に浮かんでは、明日は何をしようかなと考える気持ちにかき消されていって、僕は振り返る暇などないのかもしれないと頭に言葉を並べていた。

雨は止んで、熱気を取り戻した街には月曜日という言葉が存在していないように見えた。