Next stop is
生活
迷彩模様のような窓のシミの向こうに、自分の姿が見えた。外の光が入り込むと、誰かが触ったような跡がその上を覆う。
この電車は青梅行き。途中吉祥寺からは各駅に停まるらしい。何度見ても青梅行き。見てしまうことは、見たがっているという行為に含まれるのだろうか。
bound forというイディオムもここで覚えた。 最初はまったくわからなかったクイズも、すぐに答えがわかるようになった。
本当は外の景色を見ていたい。でも対岸のあの人は、僕がジロジロと見ていると思っているような怪訝な顔をしているような気がして、ずっと見ることが出来ずにいる。
「閉まるドアにご注意ください。駆け込み乗車はおやめ下さい。」
最近はいろんな脱毛があること、マンションはどんどん立っていて、あんまり聞いたことの無い駅のそばにあること、世界と戦う大学の宣伝、驚きの開運法があることも、もう見飽きた。転職や婚活もいろんな種類があるものだ。
それを手に入れれば、彼らはやってくるとでも言うかのような。無意識に幸せとは何かを訴えかけるような装飾が僕は嫌いだった。
「The next stop is...」
曲の流れる耳栓からでも、大きな騒音は聴こえていて、再現はできなくても、そのリズムが身体に染み込んでいる。特に考えることもなく、降りる駅であることはすぐわかる。今日は調子が良いとは思わないけれど、わるくはない。その時が来るとわかっていて、その通りになる収まりの良さが大事だ。
最近どう?と聞かれて、こういうことを思って調子が良いと言ったとしても、彼らの期待する順調とはもしかしたら違うのかもしれない。
また青梅行きであることを見る。そこには行かない。行ったこともない。そういう駅がいくつもある。 そんな事を思ううちに、電車は速度を落としていった。
早く降りる用意をする人がいた。僕はその背中を眺めていた。彼は白いシャツを着ていた。持っているものすべてが使い込まれていない、新しいものだった。
その背中はあの日の僕のようだった。
彼はどこへ行くのだろう。
僕はどこへ来たのだろう。
僕のいまを告げる、開くドアの上。
今までは一緒にいたけれど、それでも、僕はそこには向かっていない。