公表・熊本ラーメン・横断
2020/08/01
公表(Announcement)
ついに岩手県でもCOVID-19の感染者が出てしまった。時間の問題ではあったことだろう。だが県民が恐れているのは、ウイルスに対してではない。
激しいバッシングである。
地元ならではのありとあらゆる手段で誰かを追い込む。 義憤を巻き散らかしているかのように見せて、どこかで溜めた怒りのようなものを、まるで獲物を見つけたようにぶつける。
いつかそのバトンが自分のところにやってくるということも知らずに。
きっと誰も見ていないから、バレないから大丈夫。
みんなでやれば、きっと大丈夫。
熊本ラーメン(Kumamoto Ramen)
大学の講義が終わり、三鷹のラーメン屋に来ていた。ドアが硬く開かないのに困っているけれど、まるでそういうものだという雰囲気が醸し出されていた。
オールドスクールな雰囲気のなかに浮いたように置かれた電子券売機に僕は千円札を入れた。
ものの数分で登場したラーメンは最初の大学時代に好んで食べた味にとてもよく似ていた。豚骨スープの中に焦げたようなコクがある、しっかりした味。 二十歳の僕には高くてあまり何度も食べられず、何かいいことがあった時にだけ食べた味。当時付き合っていた彼女と食べた味。 夜の青に煙草の煙を吐き出しながら、今日も美味かったと友達と話した、あの味。
一緒ではないけれど、そんな雰囲気に包まれた。
食べ終わって店を出る。ドアはスムーズに開いた。
街を歩く人の背中が夕暮れに染まっていた。
横断(Crossing)
自宅のある下町の繁華街についた時にはすでに外は青くなっていた。少しだけ明るいような気がするのはきっと夏のせいだろう。
目の前の信号が赤に変わり、立ち止まるそばを自転車が追い抜いていった。
反対側の歩道では仲良く歌を歌う若者がいて、楽しそうだ。夜はもう深まってきている。そういうことまで抑え込む必要はないと思う。
なぜか楽しそうに生きる人の姿を快く思わない人がいるのも事実なのだ。
信号が青になり、みんなそれぞれの道を歩み始めた。楽しげな声が遠ざかっていく。
あるところまで来る途端に、急にあたりが暗くなったような気がした。