提灯・張り紙・造形
2020/08/08
提灯(Paper lantern)
大学はお昼休みになっても誰1人との会話も許さない。いくらこのご時世とはいえ、やりすぎである。
そう思うのにも慣れた今、そそくさとおひとりさまのランチ探検をするのが日課だ。街に詳しい後輩が調べてくれた情報を頼りにビル街を歩く。 今日は湿度だけが夏のそれを感じさせる、不快な日。湿気が身に帯びて来た頃、食堂についた。
いかにも学生食堂といった佇まいで、値段は安く、量が多い。20代の自分はここに来たことなどないのに、なぜか懐かしいと思える場所だった。
中に入り席に座る。パチンコ屋さんの広告が入ったポケットティッシュが置いてあり、見上げた先に大きめのテレビがあった。セルフサービスの水を取りに行き、席に戻った。
そのまま目を横に移すとサッポロビールの提灯が下げられていた。 少し埃を被っていて、古くなった壁や梁の木々を照らしていた。
とても明るくて、優しい光だった。
ナポリタンにチキンカツが乗ったプレートが運ばれて来ると、机を避けるようにして手に取った水を少しだけ口に含んだ。
張り紙(Note)
大学帰りにいつも行っているバーに立ち寄ろうと思った。何かと切羽詰まっていたので急いで家に帰ろうと思っていたけれど、ふと逆のことをしろという考えが頭をよぎり、気がつくと中野で電車を降りていたのだ。
中野はいつもベージュ色をしている。そう、勝手に思っている。
アーケードを進み、バーの近くまで来ると、扉に張り紙がしてあるのに気がついた。まさか、とは思ったがやはりお盆休みに入っていたのだった。
そう、お盆休みの時期なのだ。その感覚がまるで抜け落ちていて、そして街にいる人全てにそれが言えそうだった。
僕は意味もなく遠回りをして駅に戻ることにした。 すれ違う人は思い思いの服を着ていて、誰かの手を取ったり、バッグを下げたり、スマホを手にしていた。
皆何かを待っていて、何処かへ向かっていた。ただ立ち止まっている人は1人もいなかった。
造形(Design)
東葉勝田台行きの電車に乗り、角の席に座った。僕はいまだに東葉勝田台がどんな場所か知らない。
何事かを器用に進めると、人は特に何も言わない。僕もそうだ。そういう時はスムーズであると感じることが多い。
そうでない時、声をかけてくれる人がいるとどんなに救われるかと思うけれど、なぜか天邪鬼な気持ちが湧いて、悔しくなるときがある。どうしてできなかったのか。 青色吐息が気づかぬうちに出ている、そんな自分の愚かさにも気づかぬままに。
今日は鉄板に焼けたケチャップが美味しそうだと思って、それでナポリタンを頼んだ。頼んで良かったと思う。 昨日は大盛りのラーメンを頼んだ。正直、頼んだことを後悔した。
それぞれ間違いではなかったと思う。
覚悟とは案外できていないものだ。それが良いのかどうかは、僕にはわからない。明日になってみれば、何かがわかるかもしれない。
電車に人がたくさん出て、入り込んできた。見上げるとそこは飯田橋だった。ドアが閉まると、電車はゆっくりと走り出した。