身に付く予定
影
はい、また来週火曜日同じ時間でお願いします。
お大事に、と声がするので頭を下げつつ、外に出た。なるべく声がしたら応えようと思うけれど、それが精一杯だった。カレンダーに、整骨院というタイトルだけの予定を書き入れた。
明日は友達と食事をする予定があったのを思い出した。でもそれはカレンダーには書いていなかった。
書く必要がなかった。
歳を重ねるごとに忘れっぽくなるという。それよりは、忘れてしまうと困る人が増えるという感覚があった。ぼくももう忘れっぽいからさ、おじさんなんだよね。
え〜そんなことないですよ〜。
眉をひそめながらアーケードの真ん中を歩いた。
通りがかりのパン屋さんの棚に、焼き立ての何かが、たぶんカレーパンが、陳列されるのが見えて、カレーパン、と予定にメモした。
食べてばかりじゃだめだな、と思って、筋トレ、とも予定にメモした。
そういえばフランス語の勉強がしたかったんだ、と思い出して、フランス語検定、と追記した。パン屋さんの看板の配色をみて思い出したのだろう。
いっぱいになった予定を眺めていると、少し前まで抱えていた穏やかな気持ちのなかで、なんとかそれを計画的にこなそうとする思いが湧いてきた。
それは、言わなくても分かるよね、と語りかけてくる。
気安く話しかけないで。
あなたに何がわかるというの。