なおぼうけん

日々を探検したり、掘り下げていきます。

和風に導かれて

霜を踏む音

野分もそのほとんどが過ぎ去り、すでに木枯らしが過ぎていったのだと心付いた。 そうか、体を震わすほどの空気があたりに満ちるのももう直ぐなのだ。

ざっざっという音が足の裏から伝わってくる感覚は待ち遠しい。 マフラーを巻いて、みんなが来る場所へと向かうあの時間。 10代の頃はそれが学校で、辺りは薄暗かった。 今は街の暖かい光の中をゆっくりと歩いている。お酒を飲むことを言い訳にして。

テーブルを囲み、ビールを注文する。待っている間に今日のおすすめや定番メニューを眺め、すっかり慣れたような口ぶりで3、4品の料理にあたりをつけていることを仄めかす。前の日やここまで歩いてくるときに思いついていた話題がなぜか頭から飛んでいる。「最近どう」と聞いた方は、きっとまだ思い出してはいない。

リアルな話がしたくてテーブルを囲んだわけではない。

あの時の距離感で、記憶には残らない暖かい時間を過ごすまでに、助走が必要になったものだ。

意味を作り出し、寄せては返す波のように会話をし、取り留めのない時間を過ごす間に平日に心に纏ったものが氷解していく。ただそれだけなのに、それが毎年難しくなっていく。難しくなっていく。

「もう1軒いく?」

優しい風が心に吹き、僕はそれに導かれるように歩いて行った。