ブランチ・湯治・正面
2020/07/25
ブランチ(Brunch)
三鷹に来るのはこれが2度目だったけれど、かつて来た記憶を呼び覚ますものは何一つなかった。 もう8年も前の事だ。最後に来た頃は今日ほどスマホを覗き込む人が多くなかったような気がするぐらいだ。
傘を開く必要はなさそうだけど、傘が不必要だと言えない空模様。夕方のことが心配になり天気予報をチェックした。
大学のスクーリングはこれが初めて。どういう雰囲気なのか、感染症対策で何が普段と違うのか、同級生はどんな人なのか。そういうことが一切わからず、やっぱりわからないことはいつも不安になるものだと思うのは今日の夜になってようやく気がついた。
キャンパス内ではほぼ一切の会話を禁じられ、そのため同級生らしい人の存在も認められるが、存在しているだけでお互いにそう感じているだけだった。 目にすることはできたけれど、それはいないも同然だった。
お昼休み、外に出て居酒屋に入った。 大学では勉強こそするけれど、誰がどうしていて、これから何をするのかを話す機会はまるでないのかもしれないな、と思った。
店内のテレビで王様のブランチを観ていた。トレンドの料理を食べるレポーターの笑顔が映えていた。
湯治(Hot spring cure)
午後になると大学の授業は手を動かして作業をすることが中心になった。講義形式の時間は暗がりの部屋で黙って聞いているだけで、ストレスが強く、よくこんなことを毎日やれていたよなと、昔の自分をちょっとだけ褒めた。ほんの少しだけ船を漕いだ。
おもむろにスマホを取り出し、連絡が来ていたからそれを開いて見てみると、友達が温泉に出掛けたことが綴られていた。 いいなあと思っていると今度は父から連絡がきた。歩数計が欲しいと彼は言う。
話を聞いてみると仕事中も腕につけられるものがいい、とおそらくウェアラブル端末が欲しいと言っているのだろう。
なぜかその時、いろんな返信を入れることが極端に面倒になった。手を動かして作業することに没頭していると、外が少し暗くなったような気がしたけれど、それは天気が悪いからかどうかよくわからなかった。
正面(Front)
いろんな人の動きがどうなっているかをよく考えて、それを形に起こしていた。手探りでやることもあれば、少し計画して作り出したりもした。うまくいかないと思って当たり前だと知っていながら、少しだけ焦燥感を覚えた。
まっすぐ歩いてくる人の様子は正面から見ることなく、正面から見ているのはいつも後ろ姿だなあとしみじみ思った。
18時、大学が終わり帰路に着く。温泉旅行中の友達は酒を飲みすぎて少し疲れている様子。ゆっくり温泉旅行でもしたいと口では言うものの、その通りになった記憶は僕もないなと想った。
普段なら酒を飲みながら言う台詞などそこまで気持ちはないと思ってしまうけれど、元気出せよと言う友達の言葉が今日は自然と胸に響いた。