なおぼうけん

日々を探検したり、掘り下げていきます。

単音・ブラッドピット・セッション

2020/07/21

単音(A single sound)

何か衝撃的なことが起きたと思った時、真っ白な壁に囲まれた部屋にいて緩やかなリズムで単音だけが聞こえるような精神状態になる。 動揺しているのに、嫌に客観的に自分を見ている感覚がある。

何が冷静な状態なのかなんてよくわからないものだ。

そういう朝を迎えるとまるで纏まったかのように暗いトーンで一日が彩られる。 その時を楽しめ、という言葉が時に軽薄に感じられるが、こういう時に思うのかもしれない。

それでも僕には僕の1日があり、喉は乾くし、仕事がある。

友達が健康であることを願うばかりだ。

ブラッドピット(Brad Pitt)

少しくすんだ色をした商店街を通り、僕は駅に向かった。今日は週に一度の出社日。知的生産が効率よく行えるように、その日やるべきことをうまく調整している。

やりたいと思うことを揃えていても、気持ちが上向かないとなかなか気が進まなくなるから不思議なものだ。 前日になると途端にやる気が失せるあれとも少し違う。 切羽詰まってきてだんだん下方修正しながら完成させるような感覚でもない。

もしかしたら予定は最悪の気持ちの時にできる量で立てた方がいいのかもしれない。

電車に揺られ、本を読みながら気分を整え会社に向かった。混んでこそいないが、やはり夏。オフィスに着いた頃には、背中が少し汗ばんでいた。 机の引き出しから団扇を取り出して風を浴びる。マスクの中がじとっとしていて、やりきれない気持ちになった。

オフィスビルは非常に高い階層にあるので、景色はとても良い。東京タワーから、スカイツリーまでしっかり見ることができる。 体を覚ましている間は何かをする気にもならないので、そうした外の景色を見る。

何の映画かもわからず、まるでハリウッドスターのような気持ちになった。今思うと007のようなスパイ映画の主人公の方がしっくりくるが、その時はなぜかブラッドピットが思い浮かんだ。

部屋に篭っていたら考えもしないことだということだけ、僕は評価することにした。

セッション(Session)

仕事を19時に切り上げて、スタジオへ向かいドラムの練習をする。家に帰ったら大学の授業の申請をする。いろんな予定を詰め込んで始まった1日は、午後になってもまだ何とかやりきれていた。

久しぶりのオフィスでは何人かの先輩に数ヶ月ぶり会えた。みんな元気そうだった。チャットやビデオ通話ではしないような雑談をいくらかした。

それが無駄だとは露ほども思わなかった。

気がつくといつにもまして多くの人が出社していたので、久しぶりに先輩たちが賑やかにしている姿も見た。

お昼に買ったアイスコーヒーの氷が全て溶けた頃、予定していた仕事が片付いた。打ち合わせからオフィスに戻ると、仲の良い先輩がまだ自席で仕事をしていた。少し気が重そうだった。 二、三会話してその場を去った。次に誰かと話すのはいつだろうと思ったが、明日は飲み会の予定があったのでさほど寂しくなかった。

スタジオのある恵比寿に着くと、これまでにないほど湿気がまとわりつくのを感じた。来る頻度こそ減ったからよくわからないが、この場所はいつも綺麗な人がたくさんいて、どこか気後れさせられる。 僕はコンビニに立ち寄り、サイダーを買った。

久しぶりに叩くドラムの感触は硬かった。うまくボールをドリブルできない時のボールの硬さと似ている。あのぎこちなさ。 それでも1時間、無心で叩いた。

叩いているうちに今日いろんなことがあったなと思い返していた。思い返すのは誰かのやりとりが大半だった。生の打ち合い。その時に生まれる僥倖。 サイダーの泡の刺激。

家に帰る道の途中、もう汗と油でじっとりした肌が、1日の中で結構なストレスを浴びたことを告げてくれていた。ペットボトルを口に運んだ時の、泡に弾ける爽やかな香りだけが救いだった。