なおぼうけん

日々を探検したり、掘り下げていきます。

2軍のタオル

生活

晴れた、そしてぼくは家にいる。他にやることの何よりも洗濯をしようという心地になった。 寝ぼけ眼をこする。そもそも他にやることなんてあっただろうか。

歯を磨き、顔を洗い、髪を簡単に整えてお茶を飲む。 休みの午前は何も考えずにTシャツに着替えて、適当にズボンを履く。 またお茶を一口飲む。

穏やかな時が流れていく。

色ごとに分けるほどまめじゃないわたしは、積み重なった洗濯物をただ順番に洗濯機の中に入れていった。素材によって、ネットに入れたりするぐらいのことはする。 経験的にこれ以上入れたら洗いがいまいちになる、その寸前まで洗濯物を入れ続ける。

これも入れたらちょっと多いかなと思っても、それが残り一個なら入れちゃう。

壁に少しもたれながら、じゃばじゃばと水が入り、ごうんごうんと音を立てながら少し揺れる洗濯機を眺めた。

冷蔵庫を開けると、ヨーグルトが1つ残っていた。これしめたと言わんばかりに取り出し、スプーンを探す。 一人暮らし、表情こそないかもしれないが、目の奥に暖かく、気持ちの良いものがある感覚があった。

テレビをつけ、見るわけでもなく、それがあることを感じながらヨーグルトを食べた。そうしていると、しばらくして洗濯機が景気の良い音を鳴らす。 その時になってテレビを見ているような感覚がした。CMに入るところまでみて、ヨーグルトの入っていた容器を持ち上げ、スプーンだけを取り出し、それぞれを分け入れた。

洗濯機の蓋を上げ、中身をIKEAの袋に詰める。それを抱えて、ぼくは屋上に上がった。

強い日差しがすでに降り注いでいるが、風が吹いているから、暑さは少し和らいでいた。 大きな物干し竿に、一つずつ洗濯物を干していく。タオル越しに、紺碧の空が見えた。 全てを干し終わった後、風にたなびくタオルを眺めながら、それが少しずつ、洗濯物から一つの布としてのアイデンティティを取り戻していっているような気がした。

それは僕の持っているタオルの中でも2軍のタオルだ。かつてはもちろん1軍として、お風呂上がりに使う時にうれしく感じたタオルだったけれど、いまは手洗い後用に使っているタオルだ。僕はそれをいつの間にか2軍のタオルと呼んでいたのだ。かつての輝きを失った、へたったタオル。でも生活になくてはならないタオル。

いつ買ったっけと少し考えないと思い出せないタオル。

僕は屋上から部屋に戻り、手を洗った。この後洗濯物が乾くまで、何か映画でも見ようかと思案する。 洗い終わって横を見ると、タオルは掛かっていない。

紺碧の空の下で風に揺れるタオルが頭をよぎった。

ぼくは手の水をちゃっちゃと降り下ろしたあと、まだそこに積み残っていた2軍のタオルに手を伸ばした。